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発行から4年ぐらい経ってますね。
文庫本で見つけたので即ご購入!!

「近頃、民度が、下がってきておる」・・・

こんな風に細部の端々がすっかり宮部みゆきなんですね。


ざっとあらすじですが、背表紙に書いてある部分の引用。

今多コンツェルン広報室の杉村三郎は、事故死した同社の運転手・梶田信夫の娘たちの

相談を受け入れる。

亡き父についての本を書きたいという彼女らの思いにほだされ、一見普通な梶田の人生を

たどり始めた三郎の前に、意外な情景が広がり始める。

稀代のストーリーテラーが丁寧に紡ぎだした、心揺るがすミステリー。



この杉村三郎(35)という人物が語り手です。

この人は今多コンツェルンの会長の孫娘の夫。いわばマスオさんとか逆玉とかいう設定。

そしてこの妻・孫娘自体も愛人の子ですが、

心臓が少々弱いという設定があり、会長が非常に大事にしている孫娘です。

二人の出会いが映画館でしたが、それもまた面白いことに一人で映画を見に来ていた妻が

痴漢に遭い、それを救ったのが杉村ということでそこから手紙のやり取りが続いた後の結婚。

この杉村は、ごく普通の家庭の出身なので実家からは大反対されたようで

ほぼ勘当同様に会長の孫娘と結婚したということになります。

杉村の家庭のおっとり具合はなかなかほのぼのさせてくれます。

これからお受験体制に入る娘もいますが、「小さなスポーンおばさん」のお話を何度も

登場させるところなども子供を育てるということの醍醐味を感じさせるものです。

また、杉村のマスオさんとしての葛藤も少し出てきます。

お受験に通う娘に専属の運転手をつけたいという妻。

お受験までなら自分の給料でまかなえるが専属の運転手といったら

すでに義父の財力に頼ることが前提となるわけで、それでもおっとりと承諾する杉村。

なるほどと思ってしまいます。



事故死したのは梶田という会長お抱えの運転手。運転技術が非常に優れていたのと

とにかく口が石のように重いという美的要素を持っていたという設定です。

この梶田が自転車にぶつけられ事故死してしまい、犯人が分からないので

娘二人が自伝を出す事で犯人逮捕に結びつけるという展開となります。

それを探っていくうちに、ごく普通の家庭のように見えた梶田には犯罪の芽のような

ほんのわずかのほつれがあったこと。

姉妹の姉が記憶している出来事、また姉の結婚の話など

普通の出来事を少しずつ織り交ぜて、見えてきた過去があり、

そして事故の解決もありました。


最後の最後に、驚く事実が出てきてコレが本当にびっくりなことだったのが意外でした。

ごく普通の家庭でも、外からは見えない何かを抱えているということをつくづく感じたものです。

それにしても、父親を慕う娘二人の構図を本当に父親だけを慕っているのだと

最後まで思わせてくれていたのにどんでん返しには腰を抜かしました。


杉村の母親の描写はなかなか毒があり面白かったですね。

口にマムシを飼っているくらいの毒を乗せた言葉がぽんぽん飛び出す女傑らしい。

「男と女はね、付き合っているとそのうち品性までが似てくる。

だから相手はよく選ばなくちゃいけない」

このセリフはなかなか効きました。


タイトル「誰か」は普通の誰かに呼びかけているのですね。

誰か・・

この杉村三郎は次期でも活躍シーンがあるそうで

「名もなき毒」で再登場し、

さらにあと一作に登場する予定があるとのことで

杉村三郎の三部作が期待できるとのこと。


毒のある母親のもとで育ったにしては

杉村はかなり思慮の深い温かさを湛えているし、

温厚で控えめのごく普通のキャラでありながら

バックボーンにコンツェルン会長がいることはかなり魅力的。


全体的に地味目な印象でしたが

読み終わってみると面白かったと言い切れるものがあるのが宮部みゆきです。

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